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東京地方裁判所 昭和60年(わ)133号 決定 1985年8月07日

少年 T・T(昭41.11.22生)

主文

本件を東京家庭裁判所に移送する。

理由

一  本件公訴事実は、「被告人は、A、B及びCと共謀の上、昭和60年4月13日午前1時40分ころ、東京都府中市○○町×丁目×番×号所在の○○○マンションE棟先路上に停車中の普通乗用自動車内において、D子(昭和39年8月31日生)に対し、その胸部などを押えつけて同自動車後部座席に仰向けに押し倒し、着衣をはぎ取るなどの暴行を加え、その反抗を抑圧した上、強いて同女を姦淫したものである。」というのであつて、右の事実は、当公判廷で取り調べた関係各証拠により、これを十分に認定することができる。

二  そこで、被告人の処遇について検討する。

まず、関係各証拠によると、次の各事実が認められる。

1  被告人の生活歴は、石工の父Eと母F子の3男1女の末子として出生し、順調な発育をして横浜市内の小、中学校を卒業後、同市立の工業高校に進んだが、家庭面では父母間の葛藤があつて、暴力を振う父親の許から逃れたい願望を有し、また、経済的な理由からアルバイトをしているうち、アルバイト先で窃盗事件を惹き起こしたことがあるものの、軽微な事件であつたので横浜家庭裁判所で審判不開始決定を受け、以後特段の非行もなく、昭和60年春、同高校を卒業すると同時に、希望であつた調理師の見習として就職したばかりである。

2  被告人の性格は、知能は普通程度で、自己顕示的な行動に出る傾向があり、積極的な行動力はあるが、周囲に対する配慮を欠き、独善的で軽率な行動に出たり、激情の赴くままに行動をすることがあり、性的倒錯傾向は窺われないが、異性との交際においても自己本位的な考えを押し通そうとする傾向が見受けられる。

3  本件犯行は、被告人が職場の先輩A(昭和40年1月4日生)から誘われるままに、同人の友人B(昭和40年2月13日生)及びC(昭和39年9月23日生)を交えて、新宿でガールハントする相談の下に、2台の自動車に分乗して、適当な女性を探しているうち、帰宅途中の本件被害者を認め、被告人が声をかけ、渋る同女をAが運転する自動車の後部座席に連れ込み、走行中助けを求める同女の口を塞ぎ首を絞めるなどして、人気のない本件犯行現場まで連行した上、本件公訴事実記載のとおりの犯行(被告人及びAが姦淫既遂、B及びCが姦淫未遂)に及んだものであつて、本件犯行の主導的役割を果したのは、Aと被告人であり、本件犯行により蒙つた被害者の肉体的・精神的苦痛は甚大である。

4  現在、被告人は未だ18歳8箇月の少年であるが、本件が少年法20条により逆送決定される前の少年事件における処遇意見は、警察官及び検察官がいずれも刑事処分相当であつたが、鑑別所技官及び家庭裁判所調査官は、いずれも中等少年院送致(一般短期処遇)が相当であるとしていたものである。

5  本件犯行後の情状としては、被告人は本件逮捕により身柄を拘束されて既に3箇月経過し、当裁判所における公判審理を3回重ね、現在では、本件結果の重大性を十分認識し、本件犯行当時の自己中心的な考え方、軽率な行動等についてある程度内省を深めつつ、更生への意欲を示しており、父母兄弟においても本件を真摯に受けとめて被告人の今後の監督方を誓い、被害者側に対し慰謝料として金30万円を支払済である。

6  本件共犯者に対する刑事処分としては、主犯格のAにつき被害者に対し慰謝料84万円を支払つていることなどの情状が考慮されて懲役3年、5年間保護観察付執行猶予、B及びCの両名につきいずれも慰謝料83万円を支払つていることなどの情状が考慮されて各懲役2年8月、4年間執行猶予、の判決がそれぞれ言渡され、いずれも既に確定している。

右認定の各事実に徴すると、殊に本件犯行の罪質、被害者が蒙つた肉体的・精神的苦痛の大きさ、本件犯行態様の悪質さ、本件犯行において被告人が果した主導的役割、共犯者の処遇との関係などに鑑み、被告人の責任は極めて重大であつて、東京家庭裁判所が被告人を刑事処分相当として検察官に送致した措置は、当時の状況下においては相当であつたものと認められるが、被告人の生活歴には、葛藤家庭の中で粗暴な父親に対する反発心を抱いた問題点があるほかは、さほど大きな生活態度上の欠陥はなく、特に保護処分歴がないこと、被告人の性格には矯正されるべき点が少なくないこと、被告人が成年に達するまでにはなお1年3箇月余あること、前記の鑑別所技官及び家庭裁判所調査官の各意見などを考慮すると、被告人にはその健全な育成を図るために矯正されるべき要保護性が認められるのであり、加えて、本件犯行の経緯、態様、被告人の本件犯行における役割などにつき被告人は当公判審理を通じて内省を深めつつあつて、既に被害者に対する慰藉の努力もされていること、特に主犯格のAを含む成人の共犯者3名につきいずれも執行猶予付有罪判決が確定していることとの処分の均衡などを総合して考慮すると、現時点における被告人については、刑事処分に付するよりも、むしろ保護処分に付して専門的な機関による強力な矯正教育を施し、その更生を期待することが相当であると思料する。

三  よつて、少年法55条を適用して、本件を東京家庭裁判所に移送することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 中山善房 裁判官 角田正紀 古川龍一)

〔参照〕受移送審(東京家 昭60(少)11744号 昭60.8.19決定)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、A、B、Cと共謀のうえ、昭和60年4月13日午前1時40分ころ、東束都府中市○○町×丁目×番×号○○○マンションE棟先路上に停っている普通乗用自動車内において、D子(当時20年)に対し、少年がその胸部等を押えつけて同自動車後部座席に抑向けに押し倒し、着衣をはぎ取るなどの暴行を加え、その反抗を抑圧し、少年及びAの順で強いて同女を姦淫したものである。

(適用した法令)

上記事実につき刑法177条前段、60条

(処遇の理由)

少年の資質、生活史、非行歴、処遇経過及び家庭その他の生活環境については、調査記録にあるとおりであるところ、これら及び本件非行内容など審判に現われた諸事情、特に、

1 少年は高校在学中の昭和57年10月窃盗により保護的措置(審判不開始)を、同59年に2回道路交通法違反により保護的措置(不処分)を受け、同60年3月高校を卒業し、東京都内デパートの食堂に調理師見習として就職し、父母のいる横浜市から都内の寮に移り、職場の先輩Aを知り、同人とガールハントの体験を話し合ったりするうち、夜間自動車に女性を誘い入れ、Aの友人らを交えて皆で情交に及ぶことにしようとの計画を立て、本件当夜その計画を実行に移して本件非行に至ったものであること、

2 本件非行は、自動車2台に共犯4名が2名ずつ分乗し、街で強引に女性をA運転の自動車に誘い入れ、十数キロメートル走行し、途中危険を感じて交番に向い助けを求める被害者に暴行をも加え、人気のない場所でまず少年が反抗を抑圧して姦淫を遂げたという事案であり、少年は、最年少者なのに、A以外の成人共犯者より悪く、本件計画立案に関与したほか、その実行行為でも、自ら女性を誘い、車内の脇にいて脱出を防止し最初の強姦を行って、積極的中心的な役割を演じていたこと、

3 少年は、普通程度の知能をもち、日常生活に大きな崩れがなく、職場にも概ね適応していたけれども、気が短く、自己本位の考えが著しく、自己顕示的欲求も強く、独り善がりで調子に乗って軽卒な行動に走り易い傾向にあって、重大な本件非行に卒先関与したこともかような行動傾向に根深くかかわっていること、

4 少年の両親は、本件非行につき被害者に謝罪し、慰謝料30万円を提供し、示談を成立させ(他の共犯者の出捐は合計250万円)、将来の監護を誓っているのであるが、その家庭には短気で粗暴であった父のため葛藤があり、少年においても父に反発し家庭から離れたい欲求があって寮に居住していて本件に至ったものであること

などを総合し、共犯者3名の刑事裁判における量刑結果をも併せて、少年の処遇を検討するならば、少年には保護処分の体験がないけれども、少年に内省を深めさせ、問題のある性格傾向に改善の手を加えるためには、この際少年を収容して、短期間といえども集中的な矯正教育に付することが必要であると認められるから、少年を中等少年院に送致することとする。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項、少年院法2条3項により、主文のとおり決定する。

なお、少年の非行性の程度等に照らし、少年に対しては、一般短期処遇が相当であると思料し、別途その旨の勧告をする。

(裁判官 杉山英巳)

処遇勧告書<省略>

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